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社会・政治

仕事と家族  日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか

筒井淳也

中公新書 2015.05.25

少子化=女性の働きづらさの問題は、他にもいろいろ原因はあるが、主として長時間労働、長時間通勤、転勤など日本的な男性の働き方を女性にも適用し、それができない女性には低賃金非正規労働を強いていたことに起因する、これはもうずい分前からマルフェミの論者などが指摘していたことで、本書の主張とも大筋一致する。

(それなのに状況がいっこうに変わらないのは、こういう労働慣行が、中高年男性が大半を占める日本の指導層に都合がいいからだろうけれど、少子化も限界にきてさすがに彼らも困っている。それで子どもを産め々々とヒステリックに叫んでいるが、本質的構造的な対策をとらないのだから変わるはずがない。育児手当などの一時的なバラマキでは、子どもを社会に出すまできちんと育てられないことは、若い人たちは本能的にわかっているのだ。70年代に多少女性運動に関わった身としては、あーあ、あれほど言ったのに、という気分だが、原発の問題にも似て、この国の為政者は自分の口が甘い汁を吸ってさえいれば、自分のお尻に火がついても気がつかないのだ)

本書のユニークな点は、働く女性が多く出生率も上がっている国として、「大きな政府」のスウェーデンと「小さな政府」のアメリカというある意味対照的な二国を挙げている点だ。(フランスなども脱少子化が進んでいるようだが、それはあまり語られてない)。 もっともこの二つの国が将来のモデルになり得るかといえば、必ずしもそうではないらしい。 アメリカでは、(ヨーロッパでもそうだが)仕事が個人の職務単位で日本のようなチーム労働ではないから、自分で労働時間を調整できるし、転職も比較的容易(日本では終身雇用はもう衰退したとはいえそれに付随する慣行はまだまだ残っていると思う。例えば途中採用軽視などそのひとつだろう)。公的育児支援の制度はほとんどないが、若いカップルが共働きで収入を増やせば、ベビーシッターを雇うなど市場で育児サービスを調達できる(p.115)(ここで指摘されていないのは、アメリカでは外国人労働者や黒人低所得層などが低賃金でこうした家事・育児サービスを担っている事実。これがなければ、いくら共働きでも中程度以下の所得層が十分な育児支援を受けることは難しいだろう)。

これに対して、福祉社会である北欧諸国では、出産・育児支援は整っているし長時間労働もなく一見何の問題もなさそうに見えるが、実は女性の社会進出を妨げる要因がたしかにあるという。それは何かと言えば、「大きな政府」であるがゆえに政府が大量の雇用を生み出しており、その大きな部分を占めるのがケアワーカーである、という点である。いろいろな理由で女性がそのケアワーク的な仕事に就く比率が高く、「男性は民間企業、女性は公務員」という「性別職域分離」が問題となっているという。

日本のように雇用差別の激しい国からみたら、民間であろうと政府であろうと正規で同一賃金で働ければこんないいことはなさそうに思える。しかし実際には、高学歴高能力で民間にいけばもっと稼げたはずの女性が、公的雇用に流れるため、「結果的にそう高くない賃金レベルに落ち着いてしまっている」(p.127)というわけである。これは長い目でみれば、やはり女性の職域拡大という観点からよくないことなのだろう。職域が限定されることが当初は高学歴女性だけに該当するとしても、それはきっといずれは学歴や所得の低い層にも波及してくるだろうから。やはり男女共に様々の職種で同等の待遇で働ける社会がいちばんいいのだ。完璧な制度はなく、仮にあってもそれを完璧に実施している国はないのは当然だが、現状やその問題点を知ることは大事で、その意味で本書のような研究は貴重なものだと思う。