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文学・評論

おらおらひとりでいぐも

若竹千佐子   河出書房新社   2017.11.30

70代後半の女性が主人公、全編ほとんど東北弁の独白等異例ずくめの小説(でもそういえば高村薫の『土の記』も老人が主人公だった。長寿時代の流れかしら)。
東北の片田舎と東京のど真ん中とルーツは全然違うが、自分と同世代の主人公、フィクションとはいえやはり自分と比較してしまう(著者は主人公の設定よりまだ10歳ほど若いようだが)。
愛情深い性格で夫や子どもに尽くしたために、十分自分の生を生きることができなかったという、私たちの世代の女性にはよくある悔い。私自身についていえば、夫や子どものためにやりたいことを断念することはあまりなかった。ずっと仕事をもってそれなりの所得もあり、家に閉じこもるようなことはなかった。しかし、もちろん家族とくに子どもたちへの養育義務はそれなりに果たしたつもりだが、かといって本当にやりたいことを出来た訳ではなく、そのバランスはけっこう危ういものだったかもしれない。

それに対して、主人公の桃子さんは徹底的に愛し色々なことを諦めたのだが、だからこそ、柔毛突起というメタファーで表わされるような内面の豊かさと多彩さを長い年月の間に蓄えてきたのだと思う。これはやはり、ある程度歳を重ねた女でなければ絶対書けない小説だろう。公式的なフェミニズムで言われるような女性の生き方でなくても、女たちはみんなしたたかに自分の生を紡いてきたことが伝わる作品。

こういう作品が賞をとれる現代とは、ある意味良い時代なのかもしれない。そして年齢、性別、生まれ育ちなどの多様性が当たり前になってゆく時代の、そのスタート地点に私たちはいるのかもしれない、いればいいと思う。

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