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人文・思想

女性のいない民主主義

前田健太郎

岩波書店eB00ks  2020.01.30

本書は、いわゆる知識人と一般人とを問わず、いちばん底の底のところにある男女意識(男女差別であるという意識でさえない)を抉り出している。
「どうやら、筆者も含めた多くの政治学者は、女性がいない政治の世界に慣れきってしまったようだ。少なくとも、民主主義という言葉が、男女の地位が著しく不平等な政治体制を指す言葉として使われていても、あまり気にならなくなってしまっている」

大分昔だが、こういう説を聞いたことがある。ある調査によれば、何らかの社会的・公共的な集まりでは、参加する男女の比率が7:3ぐらいだと、男女共に居心地がいいと感じるらしい。男性ばかりの集まりだと男性にとってたしかに違和感はないかもしれないが、何となく人類を代表していないという(事実そうなのだが)後ろめたさがある。逆に女性が多いと、その会合はそれほど大事なことを問題にしているのではないのではないか、という空気を男女共に意識するという。なぜ7:3なのだろう。人口比でいえばほぼ1/2なのに、人々が心地よく感じるのは、なぜ7:3であって5:5ではないのか。

著者が問題にしているのは、こうしたほとんど空気を吸うように当たり前に感じられている、男女の社会への関わり方の違いである。「少し思い返してみてほしい。今、頭に浮かんだ風景(永田町の国会議事堂で起きている出来事)の中に、女性は何人いただろうか。おそらく、登場人物のほぼ全員が、スーツ姿の男性だったのではないだろうか」
単に数の問題に過ぎないのかもしれない。しかし、多分問題は「数」なのだ。議員の数にしても、働く女性の数にしても、子どもの数にしても、もし「数」が適正であればかなりの問題は解決するのではないか。でもそれを妨げている制度、システム、勢力が日本には牢固としてある。そんなことを思い巡らせながら本書を読み終わった。

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