小川洋子 講談社文庫 2020.12.15
人々の「物」の記憶が少しずつ消されていく、不思議な島の物語。人間に記憶があること自体が不都合であるらしく、秘密警察のようなものがあって、記憶を保っている人間は弾圧され、自死に追いやられるか身を隠すほかない。
意識、つまり脳内の記憶さえコントロールされるディストピアにも見えるし、ナチス時代のドイツのように敢えて記憶喪失を選び、しかもそれを選んだことさえ忘れる社会のメタファーのようにも見える。
小川洋子の文学世界は、読むたびになにかしらざわざわしと落ち着かない感じで、個人的にはそれほど好きとは言えないのだが、やはり傑出した書き手と言うほかないだろう。