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A Room of One’s Own

Virginia Woolf 1929 From Gutenburg

フェミニズムの古典。もっと早く読むべき書だったが、今頃になって、しかも英語クラスのテキストになってようやく読んだという次第。

いちいち納得する場面が多い。ようやく女子の大学教育が認められた時代で、アカデミズムの世界にはほとんど足を踏み入れることができなかった。大学に通うことはできたが、図書館へのアクセスは禁じられていたというのは象徴的。

100年前と今と、女性の状況は、いわゆるジェンダー・ギャップは何が変わり何が変わらなかったか、という比較を考えてみるのも面白いだろう。ある程度の年収と自分一人の空間、それは、不十分ながらも、100年前と比べて相当改善されている。しかし、女性にはそれとは全然別の問題があったというのは、彼女のような階級の女性には全然理解できなかったのかもしれない。

つまり家事・育児の問題である。彼女自身は子どもを持たなかったが、或る程度富裕なUpper Middle Classの出身として、たとえ持ったとしても、当時の風習にしたがって、かなりの程度雇い人に育児を任せることができただろう。だから細かい家事・育児の話はほとんど出て来ない。子沢山で子どもたちの養育に身を捧げた上流婦人の話は出てくるが、おむつを替えたり授乳したりといった直接的な育児の話は出て来ない。そもそも彼女が聴衆として語りかけているのは、数少ないチャンスに恵まれて大学教育を受けている超エリート女性たちなのだ。

もちろん私は、子どもを産み育てたことがないからとか、家事をしていないからとかで女性の問題は分からないなどと言いたいわけではない。生れた時代や場所によって違うが、女性の問題は全体としては変わりがない。階級や身分による差別が或る程度解消されてみんなが平準化されてきた今の時代、生きていくのに不可欠な家事・育児の問題が、ようやく問題として焦点を当てられるようになったということなのである。

Virginia Woolfの時代と違って、今日、社会的成功を収めたかどうかに関わりなく、働く女性たちは、一定期間家事育児の重圧を逃れられる人々はそう多くない(特に日本では)。だからこそ彼女たちは声を上げたのだ。なんで私たちがこんなに家事育児で苦労しているのに、男たちはなんの関わりもないの?と。

本書はこの点に関してはあまり参考にならないものの、学問、教育、キャリア、社会的地位に関する彼女の議論は今でも十分通用すると思う。数年前の医学部受験の問題に象徴されるように、女性は今も、最初からcareer opportunity から排除されているケースが多い。この辺りはいずれ徐々に改善されていくとは思うが、それは先に述べた出産、家事、育児等多くの女性には避けて通れない問題と密接に関係しているのである。

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