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ノンフィクション

Educated A Memoir

Tara Westover

Random House 2018 (Kindle)

本書はアメリカ社会の多様性を改めて認識させるとともに、どんな環境にあっても意欲と努力があれば偉業を達成できるという一種のサクセス・ストーリーといえる。
とはいえ本書は、教育の機会を奪われた少女が、たまたま能力が優れていたから成功を手にしたというだけの話ではなく、教育と言うものの根幹に触れる物語なのだ。私の知人で著名な教育学者苫野一徳氏は著作『教育の力』でこう語っている。「公教育は、すべての子ども(人)が〈自由〉な存在たりうるよう、そのために必要な“力”―わたしはこれを〈教養=力能〉と呼んでいます―を育むことで、各人の〈自由〉を実質的に保証するものなのです」(p.23)
Taraは公教育を受ける機会を奪われたために自由に生きることができなかったのだが、自らの力で必死にその自由を取り戻した。そこがポイントである。そしてその意味で公教育は、アメリカの田舎だろうと、アフリカだろうとシリアだろうと、能力が高かろうと低かろうと、すべての子どもたちに保証されなければならないのである。

それにしてもTaraは成功した後も狂信的な家族とdetachmentを果たすタイプではなく、信仰を棄てたと非難する両親とも極力決裂を回避しようと涙ぐましい努力を続ける。両親の子育ては我々常識人から見れば95パーセント誤っているとしても、あとの5パーセントは、Taraと両親やきょうだいとの関わりを通じて、現代人には見えなくなった家族のあり方を示唆しているとも言えるかもしれない。

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