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文学・評論

Beloved

Toni Morrison Vintage International 1987

ノーベル賞作家Toni Morrisonの代表作。
英語非ネイティブにとってはかなり困難な読書だった。多分当時の黒人特有と思われる標準英語とは違う言い回しはもとより、時空が自在に入れ替わる独特のプロット、大体はリアリズムのスタイルでありながら、ghostが登場するなど時に非現実的なトピックが入ること、登場人物、とりわけタイトルにもなっているBelovedという少女の不可解さ…。
内容の良さを味わう前に、語学の問題でつまずいてしまった感じ。Wikipedia等で事前に物語の進み行きをよく調べていけば、納得感ももう少し違ったかもしれない。文学においてはネタばれなどは関係ないのだから。

奴隷狩りに捕まりそうになって、再び奴隷の身に落ちるなら死んだ方がましと幼い我が子を殺した母親の話にヒントを得て書かれた小説、というのは事実だが、この小説は単純に白人の黒人に対する差別や虐待、迫害だけを描こうとしているわけではないと思う。
黒人コミュニティは過酷な環境のなかでも、自分たちのアイデンティティを必死に守ってきた。それは伝統と文化というにはあまりに遠い過去となってしまったものかもしれないが、遠い祖先がアフリカ大陸で養っていたものの皮膚感覚のようなものを、彼らは決して手放していなかったのだ。それはSetheの義理の母、Baby Thugs(こういう名前にどんな意味があるのか、私には分からない)に体現されている。

SetheやPaul D等の緊迫感溢れる逃亡生活、Denverを産み育てた経緯、オハイオに定着した後のcommunityでの生活、SetheとPaul Dとの愛と緊張関係…

はじめはよく分からなかったこの小説の偉大さがじわじわ沁みてくる気がする。
最後、Denverの身の振り方に希望を感じた。

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