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ノンフィクション

女帝 小池百合子

石井妙子 文藝春秋  2020.05.30

学歴詐称、上昇志向、虚言癖、権力者への阿諛、これらはみんな真実なのだろう。対立する利害を調整してできるだけ多くの人が納得する解を探る一方、自身の理念に反することはたとえ多数者の意見だとしてもきっぱり拒絶する、そうした本来の政治家としての資質にはまったく欠けている人だということは確かだ。

しかし、大体は絶賛するAmazonのレビューのなかで少数意見としてあったとおり、必ずしもフェアでない部分も確かにある。大量のリサーチを行い、無数のインタビューを実施しているが、自身が聞きたい意見だけに耳を傾け、それを記録しているという側面は否定できないと思う。たとえ歪んだ形にせよ、彼女を評価する意見はあったはずだが、そういうものはほとんど出てこない。もちろん両論併記がいいという訳ではない。ノンフィクションとは言え著者の価値判断は当然現れるし、むしろ表した方がいいと思う。しかし、否定的なだけでなく、もう少し別の観点があったほうが、小池百合子という人間の実相により深く迫れたのではない。

しかし困難な調査と取材を通して、或る意味日本の年輩自民党政治家のカリカチュアともいえる小池百合子の姿を浮かび上がらせたという意味では、やはり近来稀に見る政治ノンフィクションの傑作だと思う。

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