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プロフィール

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 アイのパブにようこそ、いらっしゃいませ。
お飲み物、何になさいますか。都会派のあなたはマンハッタン、ちょっとラテンなあなたはマルガリータをいかが、マッチョなこちらさまはバカルディ・ラムをストレートでどうぞ。
 あら、お客さま、お一人ですか? なら、徒然のままにアイの夢でもちょっと聞いてくださいませ。アイの夢はね、このパブをピアノ・バーにすること。もちろんプレイヤーはアイ本人。
こんなお店になったらいいなあ……

「……今日もアイは店に出ていた。娘のはるみが体調を崩して休んでいたからである。
シルバーがかった白のブラウスに蝶ネクタイを締め、黒のロングスカートを身につけた姿は、とても先月八十七歳の誕生日を迎えた人間にはみえない。店内の抑えた照明がアイの顔に刻まれた皺を隠し、柔らかな銀髪に絹のような光沢を添えている。背は少し前傾し、飲み物を運ぶ手がかすかに震えているが、ロングスカートの裾をさばく足どりはまだなかなかしっかりしたものである。
 うしろのカウンターでは、アイの長年のパートナーであるタッドがシェーカーを振っている。
 ひとしきり続いた客足が突然凪いだように途切れると、アイはトレイをカウンターに戻し、傍らのグランドピアノに向かった。ピアノ椅子に座ると曲がっていた背はピンと伸び、頬には赤みがさして少女のような表情が浮かぶ。まばらな拍手を受けてアイが弾き始めたのは、ビリー・ジョエルの「オネスティ」。イントロを弾き終わると、なじみ客の一人がマイクを取りあげて歌い出す。ニューヨーク仕込みの英語のアクセントはなかなかである。
 次ぎにアイが弾くのは、ジャクソン・ブラウンの「スカイ・ブルー・アンド・ブラック」。それほどメジャーでないヴォーカル曲とあって楽譜を売ってないから、アイがピアノの先生の指導を受けながら自分でピアノ曲にアレンジしたものだ。
 
 There’s a time to separate and a time to be one.
 “If you ever need holding, Call my name, I’ll be there.
 If you ever need holding, And no holding back,
 I’ll see you through, Sky blue and black.
 
 別れが必要な時もあるけど、一緒になるべき時もある
 こらえ切れないときは、ぼくの名を呼んで。そこに行くから
 もうそんなに頑張らなくていい、ぼくが見守っているから
 どんなに暗い夜がたちこめても

 そんな風にいいながら、結局アイのもとを去って行った来し方の男たちの顔を思い浮かべながら、アイのピアノ演奏は更けゆく夜を迎えるかのように続くのだった……」
 
 おいおい、聞いていた客がため息をつく。「いくらなんでも、八十七歳のバアさんが接客するパブがあるかァ……」「だってしょうがないのよ。まだバイエルも終わってないアイが、スタンダードのジャズやポップスを店で弾きこなすようになるまでには、それくらいの年数が要る計算なんですもの」

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かつて趣味だったピアノをネタに、ちょっとコントを書いてみました。お楽しみいただけたでしょうか???

さて以下は真面目にプロフィール。

かなり年配の女性。東京の中西部に夫、娘、孫と暮らす。

元の職業

フリーランスの翻訳業(主に実務分野で英日、日英、独日)。売れない翻訳書あり。今はリタイアしているが、ときどき頼まれ仕事やボランティアで翻訳をする。

好きなこと

①語学学習。 ドイツ語、英語、フランス語、イタリア語など学ぶ。英語とドイツ語は仕事。

②ピアノ。 五十の手習いで始めたけれど、トシとってから始めた楽器は時間と比例して上達するものではない、むしろ後退するものだ、という冷厳な事実に直面してやめました。「アイの夢」は破れ…。でもたまにピアノを開けてかすかに覚えている曲の一部を弾くと、それはそれで楽しい。あの時間は無駄ではなかったのだ!

音楽を聴くこと。 クラシック、ポップス、ロック、フォークなど何でも好き(歌謡曲とジャズはあまり聴かない)。目標としては月に一回ぐらいライヴやコンサートに行きたいが、なかなか難しい。好きなアーティストは、ジャクソン・ブラウン、リッキー・リー・ジョーンズ、ブルース・スプリングスティーン、スティング、ホール&オーツ、U2、シェリル・クロウ、浜田省吾等々。クラシックの方は、とんがった現代音楽以外なんでも好き。それにしてもこの頃めっきり音楽を聴かなくなった。

④旅行。 基本的に海外が多く、年に1,2回は出かけていた。一年間滞在のアメリカと一か月半ほどの西ヨーロッパひとり旅を皮切りに訪れた国は、大陸ヨーロッパ以外にインド、アイルランド、イスラエル、フィンランド、アイスランド、ニュージーランド、ヴェトナム、エチオピア、スリランカ、ポルトガル、タヒチ、英国、韓国、シンガポール、タイ、ラオス、インドネシア、ポーランド等。インド、イタリア、アイルランド、英国、韓国は複数回訪れている。ひとりで、夫と、仲間と、などいろいろ。パッケージツアーは好きじゃないのでめったに 参加しない。国内旅行はあまりしていないが、最近日本国内で行きたいところがいろいろ出てきた。これからあとどれくらい旅ができるかな。

⑤哲学。 ひとりでじっと机に向かって哲学書を読むというんじゃなく、必要な箇所を読んでいって仲間とあれこれ語り合うのが楽しい。その後の飲み会も。趣味?が高じて、哲学入門書の共同執筆にほんのちょっと参加させてもらったり、哲学書の英訳をしたりしている。

ブログの趣旨

本を読んでも旅をしても、最近なんでもかんでも忘れてしまう。忘れたっていいではないか、誰に迷惑をかけるわけでもなし、とも言えるが、読書は私の生きている証し。新聞の書評や広告で興味をひかれ、わくわくしながら読んだ本、読書会のテキストになってみんなであれこれ議論した本、敬愛する師や友人が書いた本、そしてもちろん時空を超えて読み継がれた古典と言われる本、などどれも大切な思い出だから、少しでもその痕跡を残したいと思って読書ブログを始めた。ときどき読み返しながらにやにやしたり腹ををたてたり、我ながらうまいことを書くと感心したり(それはめったにないが)の自己満足ブログ。現実世界では日頃あまり自己主張できないタチなので、こんなところで自己顕示欲を満足させているのかもしれない。もっとも読者はほとんどいないと思うので、顕示になっていないのだけれど。自分に対して自己顕示をしている屈折。しかし無名の一市民が書くブログというのはもともとそんなものかもしれない。

映画もよく見ていることは見ているので(ほとんどDVDだが)、このカテゴリーも充実させたいのだが、なかなかそちらまで手がまわらない。