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分かれ道

ユダヤ性とシオニズム批判

ジュディス・バトラー/大橋洋一+岸まどか 訳

青土社   2019.11.05




本書を読めば、この混沌として不条理で理不尽な世界で、まだ思想の力というものが生きていると感じられる。

ユダヤ人というアイデンティティは、大部分がそうしたスティグマを背負って生きたことのない日本人にとって想像もできないほど強烈なものらしい。2000年の差別と離散の歴史に加えて、極めつけはホロコースト。バトラーも例外ではなかった。
しかし彼女はその歴史を満身で背負い、なおかつ、よりよい世界を創るために人間としてのユダヤ人がいかにあるべきかを探り続けた。その血の滲むような苦闘の成果が本書だと思う。

基本的にはハンナ・アーレントに多くを負っているようだ。もちろん批判もあるけれど。ベンヤミンのところは、ベンヤミンを読んでないしよく分からなかった。レヴィナス批判は納得。サイードへのリスペクトを感じる。

具体的には、明確に入植型植民地主義を否定し、二国家共存しか方法はないと考えているようだ。そもそも必然的に難民を創出するようなシステムが国民国家だとすれば、国家主権という概念自体を否定するしかないと。その根底にはアーレントの複数性の思想がある。「決して私たちが選んだわけではない人びと、しかも社会的帰属感を共有しない相手とともに私たちは生きるだけでなく、彼らの生命を、そして彼らがその一部をなす複数性を維持する責務が私たちにはあるのだ」(287)

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