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人文・思想

脳科学から見る子どもの心の育ち

―認知発達のルーツを探る―

乾 敏郎   ミネルヴァ書房   2013.10.20

脳科学についてはほとんど無知だから、脳の色々な部位の名称や機能や脳内物質が出てくるのには閉口した。それでも読んでいると面白くてやめられない。ひとつには、仮説が実験などで検証され新しい知見が出てくる、まさにスリリングな科学研究の現場を追体験できるような構成になっているからだろう(実際、この分野に貢献した科学者たちの写真が随所に掲げられている。本書の理解には関係のない情報のはずだが、著者のそうした同僚科学者たちへの敬意が感じられる)。

分からないながらも面白いと感じた点(自分の理解の範囲内なので、すごくおおざっぱでしかも間違っているかも)。見ることとは、網膜で受け取られたイメージがそのまま視覚情報になるのではなく、まだ起こっていない運動に対して予測・計測してそれをフィードバックすること。like-me システム(ミラーニューロン)とdifferent-from-meシステムが共同して認知を行っていて、それが自己意識につながっていくこと。人の認知機能はDNAに書き込まれているのは一部で、むしろ胎児の頃から(もちろん生まれてからも)発達させてゆく(例えば胎児は盛んに自分の顔を自分の手で触る、それが生まれてから人の顔(母親の顔を注視する)をそれとして認識することにつながる。

自閉症のメカニズムについても、素人目からも斬新な知見がいろいろあって、発展途上とはいえきっと将来、自閉症や発達障害の人々の生活の質改善に資するのではないだろうか。一昔前まで、自閉症は母親の育て方に問題があるから、などと一部で言われていたことからすれば隔世の感がある。

本書を読んだきっかけは4歳児の孫にちょっと扱いにくい部分があって、何かヒントがあるのではないかと思ったことだが、もちろん本書は一般的な認知機能の発達の話で、具体的に子育てのアドバイスになるようなことはほとんどない(励まされたのは、DNAが全てではないことぐらい?!) しかし、ヒトの認知機能が驚愕すべき精緻な構造をしていること、そしてそれが胎児から乳児、幼児へとこれまた驚くべきスピードで発達してゆくことを知って、細かい子どものトラブルなど気にならなくなったのが大きな収穫だった。勢いで著者らが翻訳した『脳の学習力』という本を買ってしまった。

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