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千葉雅也

新潮社   2019.11.25  世田谷図書館所蔵



今流行り?の思弁的実在論などの著作を訳した気鋭の哲学者が、小説を書いたというので興味をもった。雰囲気はやっぱりポストモダン。
私はポストモダンが良く分からないし好きでもないので、語り口はなじめないが、さすがにシャープな感性だと思う。
時代の若者の生態を描いている点で、例えば村上龍や山田詠美のデビュー作品を思い出してしまうのは、年輩者としてはやむを得ない

また、日本で初めて本格的ゲイ文学が現れた、といってもいいのではないかしら。伏見憲明さんの著作なんかで或る程度実態は知っていたけれど、小説としては私の知る範囲ではなかったのではと思う。昔ペンギンブックスのGay Short Storiesの一部を翻訳したことがあるが、時代的な制約でかなり遠まわしで、良い意味でも悪い意味でも「文学的」だったことを覚えている。

豊かで多彩なゲイの暮らしのなかにふと顔を覗かせる、ゲイであることの孤独。それは一般的なマイノリティであることの孤独と通底するものがあるのか、それとも全然質的に違うものなのか、その辺はちょっと想像を絶している。

「僕の体は遅い。ノンケの友人たちは、僕とは絶対的に異なる速度を生きているかに思えた。安藤くんやリョウや篠原さんと同じく、K(主人公の親友)もノンケなのであって、彼らは僕を無限の速度で引き離していく。安藤くんの眼差しのまっすぐさ。あれは速度なのだ。無限速度。だが僕の眼差しはカーブする。それどころかカーブしすぎて引き返し、眼差しは僕自身へ戻ってきてしまう。僕の眼差しは釣り針のようにカーブして男たちを捕らえ、そして僕自身へと戻ってくる」(p.113)


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