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文学・評論

「自由」の危機 息苦しさの正体

藤原辰史・他 集英社新書  2021.06.22

20数名のいわゆる知識人・文化人が一堂に会して、それぞれ個性的な発言を集約して出来上がった本書。こういう本が出版されること自体、とりあえず日本はまだ大丈夫かなと思わせてくれる。

もちろん、わずか10年のうちに(つまり安倍・菅政権の間に)どんなに日本が変わったか(多くの寄稿者が言及している)を考えれば、油断はできない。子どもたちに対する戦前のいわゆる皇国教育などは、わずか数年で仕上がってしまったという話もある。

自由とはほんとうに脆いもので、ともすれば簡単に私たちの手元からすり抜けてしまうものだということを、本書を読んで思い知らされた。とりわけ、高橋哲哉氏が指摘しているように、ある世代が非常に重く辛い経験をして自由の大切さを思い知らされたからといって、それが次の世代に伝わるとは限らない、そのことが大きな問題。人間は忘れやすい。個人の伝承努力には限界があるので、戦争や差別や災害などの伝承には、教育も含めた制度的な保証が必要なのだが、日本はこの点怠惰というよりはむしろ敢えて忘れようとしているとしか思えない節がある。これには我々老人世代の責任も大いにあるのだが。

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