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ノンフィクション

極夜行

2018.02.10   角幡唯介  幻冬舎  2019.10.25

今まで探検家という人々の本を読んだことがなかったので、人類と自分自身にとってどうしても必要なことでもないのに、わざわざ常人にはとても耐えられない環境に身を置き、艱難辛苦をなめながら目的を果たそうとする、この種の人々のやることが理解できなかった。山登りも同様。なんでわざわざ…と思うのは私だけではないはず。でも本書を読んで、彼らにとってのその必然性が少し分かるような気がした。

その時々の社会のシステムの外に身を置いてみたい、という人はいつの時代でも居たことだろうけれど、とくに現代のいわゆる先進国のようにすべてが便利で快適で安直、という世界だと、「野生」や「自然」のほんとうの姿を探ってみたいという強い思いが出てくるのは分かるような気がする。実際は思いだけで実行するのは多分何百何千千万人に一人というレベルで、だから彼らのレポートは貴重なのだろう。

システムの外に身を置くといいながら衛星電話で家族と交流してしまう、そうしたある種の「弱さ」を正直に告白しているところも好感がもてた。スーパーマンではない生身の人間がやっている探検だからこそ意味があるのだから。

先に『探検家とペネロペちゃん』という著者の子育て本を読んで、そのテンションの高さに辟易したが、この本はそれほどのことはなく、極限の冒険なのにわりと抑えた筆致で書いているのは、やはりドキュメンタリーだからだろうか。もちろんドキュメンタリーであれ体験記であれ、かりにも表現者であれば事実だけを書くものではないことは知っている。著者もその辺をよく自覚しているようで、実際に極夜の太陽を見る前に、その感動を「予め」どう表現するか考えてしまったなどと告白している。
しかし結果実際に太陽を見たときの、ほんとうの言葉にできなさというのは、だからこそ素直に伝わってきた。人間が成し遂げた一つの偉大な達成、それを知ってよかったと思う。

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