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文学・評論

断筆宣言への軌跡

筒井康隆  光文社カッパ ハードカバー 1993.10.25

ずい分古い本だが、あるきっかけで読むことになった。読んでみたらとても面白い。筒井康隆の本はほとんど読んだことがない。SF方面やノワールに興味がないこともあるが、やはり筒井はエンタメ作家だという自分の偏見もあったかもしれない。

もちろん私はエンタメだから読まない、読むべきではないという考えはない。面白い、興味深い本ならなんでも読む。ただ、読むべき本は浜の真砂のようにあるし、こちらの持ち時間は限られている(近頃ますます)。私が興味がある哲学や思想書は読むのに時間がかかり、さらっとは読めない。だから読む本は厳選せざるを得ない。そんな訳でエンタメやマンガはやむを得ずパスしているのである。

しかし筒井がエンタメ作家かどうかはともかく、作家自身は大変まっとうで知的な方と了解した。言っていることはみんなまともでほとんど納得。もちろん筒井自身差別の感覚がないかというと、そんなことはない。「精神的冒険のないところからは文化は生れず、それは文明の女性化である。女性化した文明は必ず閉鎖的になり、進歩が停滞する。停滞した文明は事実上の退歩であり、遠からず亡びるのである」(p.15)
石原慎太郎と程度の差こそあれ、質的には同じ。女性=閉鎖的=停滞と、歴史を吟味することなく女はこういうものと決めつけるいわゆる本質主義である。

しかし筒井の評価できるところは、自分がある点で差別的であることをはっきり自覚していることだ。「女はとかく何とか…」とか言いながら、自分は女性差別なんかしてないと思っているオジサンはいくらでもいる。自覚があればいつか変わるかもしれない。
それに部分的な発言を取り上げて全体を否定するのは、まさにかつて糾弾運動がそうであった訳で、不毛な議論になる。

最近はどうしておられるか。朝日連載の『聖痕』は面白く読んでいた。『モナドの領域』というSF風哲学小説?を読んだがいまいちだった。

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