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人文・思想

竹田教授の哲学講義21講

竹田青嗣
みやび出版 2011.03.25 初版

 

竹田教授の哲学講義

 

ギリシャ(プラトン)から現代(ハイデガー)まで並んでいるので、一見よくある学説を並べただけの哲学の教科書かと思うと、とんでもない。 これまで著者が展開してきた、さまざまの哲学者に対する斬新かつおそろしく説得力ある見解が本書に凝縮され、欲望論あるいは欲望相関といった考え方を一本の縦糸として、もはやひとつの体系をなしている言ってもいいかもしれない。

およそ現代という時代に哲学書を読んでみようという人間なら、なんとか個人的にもよりよく生き、世の中もよりよくしたいと思っているはずだ。そして哲学はそれに何ができるのか、と問うている人は多いはず。哲学オタクでもなくアカデミズムの申し子でもない、普通の読書家、学生、市民のそうした問いや疑問や願いに、これほど広い射程で過不足なく答えてくれる本があっただろうか。

著者が評価するヘーゲル、ニーチェ、フッサール、後期ヴィトゲンシュタイン等の説明はもちろん興味深いが、逆に言語哲学やポストモダン思想等の批判を通して、現代という時代とその哲学の困難というものがひしひしと伝わってくる。何かの解があるのではないかと哲学の森に入ってみたものの、踏み迷っている人は多いと思う。そういう人はとりあえず本書を手にとってみることをお勧めする。

過去の哲学思想に対する著者のような核心的な掴みは、はっきり言って誰にでもできることではないかもしれない。しかし少なくとも思想「業界」の人々は、難解だから深淵(p.239)と有り難がるいわば知的怠慢とはきっぱり別れを告げ、伝わる哲学を心がけてほしいと一読書家としては心から願う。18~19世紀のように哲学がごくごく一部のエリートのものだった時代は終わったのだから。
最後に、とても気に入った言葉。「哲学の優れた原理は、読み手の精神に入り込めば一生住みつき、その人間の思考を聡明にする」(著者あとがき p.357)

 

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